カルボン酸誘導体の反応性(反応速度)・安定性の序列とその理由
カルボン酸誘導体の種類間の求核アシル置換反応の反応性(反応速度)の比較
カルボン酸誘導体の種類間の求核アシル置換反応の反応性について、
反応性の高いものから(反応速度が速いものから)、
酸ハロゲン化物>酸無水物>エステル>アミド
と並びます。
一方、カルボン酸誘導体の安定性について、
反応性の序列とは逆で、安定性の高いものから、
アミド>エステル>酸無水物>酸ハロゲン化物
と並びます。

以下では、
カルボン酸誘導体の反応性の序列が上記のようになる理由を説明します。
カルボン酸誘導体の求核アシル置換反応の反応性を比較するときは、
・カルボニル炭素の求電子性
・脱離基が脱離した後に生成するイオン・分子の安定性
が重要です。
カルボニル炭素の求電子性が高いほど、
求核アシル置換反応の反応性は高い
カルボン酸誘導体は、カルボニル炭素の正電荷(δ+)が大きいほど、
求核攻撃を受けやすくなり、求核アシル置換反応の反応性が高いです。
カルボニルの置換基(L)がカルボニル炭素に電子求引性電子効果を与えるならば、
カルボニル炭素の正電荷は大きくなり、反応性は高くなります。
一方、
カルボニルの置換基(L)がカルボニル炭素に電子供与性電子効果を与えるならば、
カルボニル炭素の正電荷は小さくなり、反応性は低くなります。
脱離基が脱離した後に生成するイオン・分子の安定性が高いほど、
求核アシル置換反応の反応性は高い
カルボン酸誘導体は、脱離基が脱離しやすいほど、
求核アシル置換反応の反応性は高くなります。
脱離基は、脱離した後に生成するイオン・分子の安定性が高いほど、
脱離しやすくなります。
以下では、カルボン酸誘導体の種類ごとの反応性について解説します。
酸ハロゲン化物(酸フッ化物を除く)は
求核アシル置換反応の反応性が最も高い
酸ハロゲン化物では、ハロゲンの電子求引性誘起効果により、
カルボニル炭素の正の分極は大きくなります。

酸ハロゲン化物では、ハロゲンが脱離基です。
ヨウ素,臭素,塩素が脱離することによって生成する
ヨウ化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオンは、
塩基性が弱く、分極しやすいため、安定性が高いです。
そのため、ヨウ素,臭素,塩素が脱離は脱離しやすいです。
以上のことから、
カルボン酸誘導体の中でも、
酸ハロゲン化物は求核アシル置換反応の反応性が最も高いです。
ただし、酸フッ化物は例外的に求核アシル置換反応の反応性が低いです。
ハロゲンの中でも、フッ素は、
フッ化物イオンの塩基性が比較的に高く、
安定性が低いため、脱離しにくいです。
さらに、
フッ素と炭素の結合が強いこと、フッ素からカルボニル基への共鳴電子供与により、
酸フッ化物は安定性が高く、反応性が低いです。
エステルやアミドのカルボニル炭素は求核剤との反応性が相対的に低い
アルコキシド(OR)やアミンは、カルボニル炭素に電子供与性共鳴効果を与えるので、
これらがカルボニル炭素に置換しているエステルやアミドの求核剤との反応性は低いです。
カルボン酸誘導体は下記のように共鳴安定化しています。

真の構造に対するBの共鳴構造式の寄与が大きいほど、
カルボニル炭素の正の分極(δ+)は小さく、
求核剤との反応性は低いと考えられます。
エステルの求核アシル置換反応の反応性
エステルは下記のように共鳴安定化します。

Bの共鳴構造式の寄与はアミドに比べて小さいです。
よって、エステルのカルボニル炭素の求核剤との反応性はアミドに比べると高いです。
また、エステルとアミドの比較について、
アルコキシドの電子求引性誘起効果はアミンに比べて強いので、
エステルのカルボニル炭素の方が正の分極(δ+)が大きいことも考えられます。
さらに、エステルでは、
脱離基が脱離して生成するアルコキシドイオンは強い塩基性を示し、
安定性が低いため、脱離基が外れにくいです。
アミドの求核アシル置換反応の反応性
アミドは下記のように共鳴安定化します。

アミドでは、窒素の孤立電子対がカルボニル基へ強く供与されます。
窒素の方が酸素よりも強力にカルボニル基へ電子供与します。
これはアミドとエステルでは、
アミドの方が求核アシル置換反応の反応性が低いことにつながります。
窒素と酸素では酸素の方が電気陰性度が大きいので、
酸素に電子が集まっているBの共鳴構造式の寄与が大きいです。
アミドのC?N結合は、部分的な二重結合性をもち、
非常に安定で切れにくいです。
よって、アミドのカルボニル炭素の求核剤との反応性はとても低いです。
さらに、アミドでは、
脱離基が脱離して生成するアミドイオンは非常に強い塩基性を示し、
安定性が非常に低いため、脱離基が外れにくいです。
アミドイオンとアルコキシドイオンを比較すると、
アミドイオンの方が強い塩基性を示し、
安定性が低いです。
よって、エステルとアミドでは、
アミドの方が脱離基が外れにくいと考えられます。
以上のことから、エステルとアミドでは、
エステルの方が求核アシル置換反応の反応性が高いと考えられます。
酸無水物の求核アシル置換反応の反応性
酸無水物は、酸塩化物には劣りますが、
エステルとアミドに比べて求核アシル置換反応の反応性は高いです。
その理由の1つとして、酸無水物では、下の図のように、
中央の酸素の非共有電子対が2つのアシル基で共有されることが挙げられます。

中央の酸素原子はカルボニル基に孤立電子対を供与できますが、
両側にカルボニル基があるため、電子供与が2つのカルボニル基に分散します。
また、隣接するもう一方のカルボニル基 ?COR は電子求引性を示すため、
エステルのアルコキシ基よりも酸素からの電子供与が弱くなります。
その結果、酸無水物のカルボニル炭素は、
エステルより電子不足であり、求核剤の攻撃を受けやすくなります。
さらに、酸無水物はエステルとアミドに比べ、
脱離基が外れやすいという点からも反応性が高いと考えられます。
酸無水物の求核アシル置換反応では、
カルボン酸が脱離し、カルボン酸イオン RCOO−が生成します。
カルボン酸イオンは、下に示す通り、
負電荷が2つの酸素原子に共鳴非局在化しています。

このようにカルボン酸イオンは共鳴安定化されるため、
カルボン酸は比較的に脱離しやすいです。