アルケン 主生成物がラセミ体となる反応 111回薬剤師国家試験問104の解説
111回薬剤師国家試験 問104
化合物Aを原料とし、得られる主生成物がラセミ体となる反応はどれか。2つ選びなさい。

111回薬剤師国家試験 問104 解答解説
化合物Aを原料とし、得られる主生成物がラセミ体となる反応は、
選択肢2と4です。

アルケンを基質とした求電子付加反応
アルケンのC=Cは電子豊富な構造であるので、
アルケンは主に電子を供与する側になりやすいです。
このことから、
アルケンは電子豊富なC=Cに対して求電子試薬が付加する求電子付加反応の基質になりやすいです。

生成物がラセミ体となる条件
求電子反応または求核反応で生成物がラセミ体となる条件は、
基質の平面構造に対して試薬が表裏の両側から平等にアクセスできることです。
このことが、
生成物において互いに鏡像異性体であるものが等量ずつ生成することにつながります。
ただ、上記の条件を満たすからといって必ずしも生成物がラセミ体となるわけではありません。
特に、生成物がメソ化合物であることに注意が必要です。
メソ化合物は分子内に対称面を持つアキラルな化合物のことです。
選択肢2

選択肢2は、
アルケンのヒドロホウ素化−酸化と呼ばれる水和反応であり、
アルケンにOHとHがsyn付加したアルコールが生成します。
この反応では、
アルケンのπ電子がBH3のホウ素の空軌道に供与され、
BH3が付加する過程を経ます。
この時、アルケンの平面構造に対して、
BH3が上から付加するのと下から付加するのは平等に起こり得えます。
このことは、最後に生成物がラセミ体になり得ることにつながります。
本問のアルケンでは、以下に示す通り、
生成物がラセミ体になると考えられます。

選択肢4

選択肢4は、アルケンに対するハロゲン分子の求電子付加反応であり、
アルケンに対して2つのハロゲンがanti付加(trans付加)したジハロゲン化物が生成します。
選択肢4の反応は以下のように進行し、
生成物はラセミ体となると考えられます。

以下では他の選択肢について解説します。
選択肢1

Pt(白金),Pd(パラジウム),Ni(ニッケル)などの金属触媒の存在下、
アルケンに対してH2を反応させると、
アルケンのC=Cに対して2つのHがsyn付加したアルカンが生成します。
この還元反応は、アルケンの接触水素化反応と呼ばれます。
選択肢1のアルケンの接触水素化反応は下記のように進行します。

以上より、
選択肢1の反応の主生成物は、
不斉炭素を有しますが、
分子内に対称面があるのでアキラルであり、メソ体です。
よって、生成物はラセミ体にはなりません。
選択肢3

選択肢3は、アルケンとm-クロロ過安息香酸の反応です。
アルケンと過酸を反応させると、
アルケンに対して酸素がsyn付加したエポキシド(オキシラン)が生成します。
ここでのsyn付加とは、2つのC−O結合が立体的に同じ側という意味です。
過酸のC=Oから最も離れた酸素原子は電子不足であり、
この酸素にアルケンのπ電子が供与されることから反応が進行します。
選択肢3の反応は下記のように進行します。

以上より、
選択肢3の反応の主生成物は、
不斉炭素を有しますが、
分子内に対称面があるのでアキラルであり、メソ体です。
よって、生成物はラセミ体にはなりません。
選択肢5

選択肢5の反応では、1)でアルケンに四酸化オスミウム(OSO4)を反応させると、
OsO4がsyn付加し、
中間体として環状オスミウム酸エステルが生成します。
続いて2)で、NaHSO3(亜硫酸水素ナトリウム)水溶液で還元処理することにより、
アルケンに2つのOHがsyn付加(cis付加)したジオールが得られます。
選択肢5は下記のように進行します。

以上より、
選択肢5の反応の主生成物は、
不斉炭素を有しますが、
分子内に対称面があるのでアキラルであり、メソ体です。
よって、生成物はラセミ体にはなりません。